保育DXとは?こども家庭庁のロードマップと令和8年度の最新動向

政策解説 保育

令和8年度、こども家庭庁の「保育DX」はフェーズ2(給付・監査・保活のデジタル化)へと移行します。施設管理プラットフォームの全国展開が始まるこの転換点に、自治体保育課として何を準備すべきなのでしょうか。
本記事では、保育DXの全体像・最新KPI・フェーズ2で自治体が担う役割・補助金活用まで、自治体保育担当職員向けに解説します。

昨今の保育業界を取り巻く環境の変化

1. 保育ニーズの変化

かつて問題になっていた待機児童数は、保育の受け皿整備などにより大幅に減少(平成29年26,081人→令和7年2,254人)し、過疎地域などでは、保育施設における定員充足率も低下(都市部:91.3%、過疎地域:74.6%)しています。保育現場は、「量の拡大」から「質の確保・向上」への転換期を迎えています。


出典:保育所等関連状況取りまとめ(全体版)/厚生労働省

2. 保育現場の課題

保育現場では質の高い保育実践と保育所機能が発揮されていますが、それは保育者の自助努力の上に成立しているのが現状です。
厚生労働省の調査によると、保育資格保有求職者における保育士職への就業を希望する割合は約半数で、保育士職への就業を希望しない理由としては、賃金が希望と合わない、休憩がとりにくいなどがあげられており、保育士のなり手不足を改善するためには、保育士の処遇改善や勤務環境の改善への取り組みが欠かせません。

東京都保育士実態調査においては、保育士の退職意向として「仕事量が多い」や「労働時間が長い」といった項目が上位にきており業務過多な状況がうかがえます。基準通りの人数では子どもの命と安全を守れない、休憩がとれないといった過剰な負担が問題になったことを受け、2024年度には制度発足以来75年ぶりに4、5歳児についての配置基準が改善されました。さらに2025年度からは、1歳児の配置基準についても「6:1」から「5:1」への改善を促すべく1歳児配置改善加算を新設し、あわせて処遇改善等加算の見直しによる賃上げ支援も継続的に強化されています。


こうした状況に対し、政府は保育士の処遇改善や配置基準の見直しなどの対策を講じていますが、施設や自治体も独自の取り組みを進めています。具体的には、ペーパーレス監査の実施や独自の配置基準を設けるなど、業務効率化と保育の質向上を目指す動きが広がっています。

このように保育現場の課題を解決し、保育の質を向上させるための手段として、ICTの活用が注目されています。近年では、感染症対策や安全対策の観点からも、ICT導入の重要性が認識されています。

保育DXとは何か?フェーズ1・2の全体像をわかりやすく解説

こども家庭庁の委託調査*によると、ICT補助金対象4機能(①登降園管理、②保育の記録、③保護者との連絡、④キャッシュレス)のうちいずれかを導入している施設は80.8%に達する一方、4機能すべてを導入している施設は11.7%にとどまっています。こども家庭庁は令和8年度目標として「4機能すべて導入割合20%以上」を設定しており、現状(11.7%)からの引き上げに向けて自治体主導での推進が引き続き求められています。

*令和6年9〜10月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、16,709施設回答
出典:保育ICTの導入状況に関する調査研究結果/こども家庭庁

1. 保育DXの定義:ICT環境整備(フェーズ1)から給付・監査デジタル化(フェーズ2)へ

保育DXとは、デジタル技術を活用して保育現場の業務効率化や質向上を目指す取り組みです。 保育現場におけるICT導入は限定的で、手書きやアナログ業務が主流です。そのため、保育施設職員は給付請求や監査の書類作成などの事務負担が大きく、自治体職員に関しても提出された書類の審査やシステムへの入力作業などの業務負担が大きいのが現状です。そこでこれらの業務負担を軽減し、保育の質を向上させるために、業務のデジタル化=保育DXが推進されています。

2. 保育DX推進のロードマップ

こども家庭庁は、保育DXを段階的に推進するためのロードマップを示しています。フェーズが2つに分かれており、令和8年度から始まるフェーズ2では、給付・監査・保活など、保育施設と自治体、そして保護者にとっても大きな負担となっている業務をデジタル化していくことが打ち出されています。これらのデジタル化は、業務支援システムからの情報連携を前提としています。

■フェーズ1(令和7年度)

保育ICTの導入を推進し、保育現場におけるICT環境を整備します。
保育ICTのロールモデルとなる事例を創出し、全国への展開を目指します。

■フェーズ2(令和8年度)

給付・監査・保活など、保育に関する各種手続きのオンライン化を目指します。
保育施設と自治体間の情報連携基盤を構築し、各種システムとの連携を強化します。


出典:保育現場におけるDXの推進について/こども家庭庁

こども家庭庁の保育DXの現時点で計画されている範囲の終着点は、上記のフェーズ2の実現であり、各種手続きをシステム内で行うことができる環境をつくることです。フェーズ1(ICT環境整備)を土台として、令和8年度からはフェーズ2として「施設管理プラットフォーム(保育業務ワンスオンリー)」と「保活情報連携基盤(保活ワンストップ)」の全国展開が始まります。

令和8年度は、施設管理プラットフォームの本格稼働が予定されており、保育施設と自治体の間の給付・監査手続きがオンラインで完結する仕組みへの移行が開始される節目の年度です。こども家庭庁「省力化投資促進プラン(保育)」(令和7年5月)では、令和8年度末KPIとして4機能すべての導入割合20%以上、午睡センサー導入率30%以上などが設定されています。

保育DX推進と連動する主な施策(1歳児配置改善加算・保育ICT推進加算・保育ICTラボ事業等)

保育ICTは、導入後こども家庭庁が推進するさまざまな施策と連携することで、その効果をさらに高めることが期待されています。また、ICT導入を推進するための施策も予定されています。

1. こども誰でも通園制度

こども家庭庁の政策の柱の一つである「全ての子どもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進」のための施策「こども誰でも通園制度」においても、将来的に保育ICTとの連携が構想されています。

2. 1歳児保育の加算要件

令和7年度には、1歳児保育の加算要件にICTの導入を加えることが言及されており、今後ますます保育ICT導入の推進・導入を前提とした施策が実行されていくことが予想されます。

詳しくはこちらの記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
【R7年度】保育士の配置基準変更点と加算措置についてわかりやすく解説します

3. 保育ICTラボ事業・巡回支援事業(令和7年度〜)

令和7年度より、こども家庭庁は民間事業者と自治体が連携して保育DXのロールモデルを創出する「保育ICTラボ事業」(令和6年度補正予算1.9億円)を開始しました。
本事業では、
①先端的な保育ICTのショーケース化
②ICTに関する相談窓口・人材育成
③ネットワーク形成・普及啓発

の3つをパッケージで支援します。

また、「保育士や保育事業者等への巡回支援事業」では保育事業者支援コンサルタントがICT化の推進に関する助言・指導を実施しており、自治体はこれらの支援策を積極的に活用できます。

出典:省力化投資促進プラン(保育)/こども家庭庁

4. 保育ICT推進加算(令和8年度〜)

令和8年4月より、ICTの「活用」を評価する「保育ICT推進加算」が新設されました。従来の導入補助金(初期費用の補助)とは異なり、ICTを継続的に活用している施設に対して毎年度加算されます。

加算単価:幼稚園・保育所・認定こども園 30万円/年、地域型保育事業 18万円/年

加算の4要件:
①ICT活用責任者の配置
②4機能(登降園管理・保護者連絡・計画記録・キャッシュレス)の活用
③「ここdeサーチ」の情報公表
④政府システム(施設管理プラットフォーム・保活情報連携基盤)の活用

【自治体が特に注意すべき点】
施設が政府システムを利用するには、所在する自治体が先に利用申請を行う必要があります。自治体が未申請の場合、管内施設は加算を取得できません。

4要件の詳細・令和8年度のスケジュールはスタートガイドをご覧ください。
保育ICT推進加算スタートガイド(無料)

出典:令和8年度 公定価格・基準等の見直し事項(案)/こども家庭庁

保育DX導入による効果:保育現場・保護者・自治体の三者への具体的メリット

保育現場から自治体まで、保育ICT導入の効果が顕著に現れています。保育士の負担軽減、保育の質向上、保護者や学生のニーズへの対応、自治体業務の効率化など、多岐にわたるメリットが確認されています。保育DXの進化とともに、これらの効果はさらに拡大するでしょう。

1. 保育現場における効果

保育ICTの導入は、調査やアンケートから、保育士の負担軽減に役立っていることがわかってきています。具体的には、「朝の欠席、遅刻の電話対応がかなり大変だったが、解消された」「残業時間が減少した」という声があがっています。
また、保育ドキュメンテーションを活用することで、保育の振り返りができ、次の保育計画にもつなげていけるといった「保育の質向上」を実感しているという施設からの反響も増えてきています。

2. 保護者や学生からの期待

保育施設だけではなく、保護者や保育学生の間でも、保育ICTへの需要が高まっています。実際に行ったアンケートでは、約99%が園選びで「連絡アプリ」を重視しており、約91%の保育学生がICTを活用した保育園への就職を希望しています。 実際にICTが導入された施設の保護者満足度も高く、ICTの継続利用を希望する声が多数上がっています。

3. 自治体保育担当課が感じる効果

すでに保育ICTを導入している自治体の保育担当課職員からも、保育ICT導入の効果を実感しているという声が聞かれるようになっています。

【保育ICTを導入している自治体の声】
・システム関連で課に連絡がきたことがないので、保護者の満足度につながっているのではと思う
・保護者アンケートの集計が便利になった
・本部機能により、あえて忙しい現場に連絡を取らなくてもいいケースが増えた
・学童が小中でも同一ICTを導入しているため、保護者から「同じサービスで便利」といった声があがっている
・保護者の満足度も高く、市民サービスの向上につながったと感じる

また、今後、保育DXが進み、フェーズ2(給付・監査のデジタル化)が実現されれば、自治体保育担当課の給付・監査業務は大幅に省力化されると想定されます。こうした変化にともない、運用方法も見直しの時期を迎えています。自治体によっては従来のルールの踏襲が続いている現状や、利用機能およびシステム提供形態(SaaS)になじまないセキュリティ制限などの問題が見られます。

自治体による保育ICT導入の進め方

1. 導入時の検討項目

保育ICTを導入する際に検討にあがる項目は、自治体ごと、公立施設ごとの状況に応じて変わりますが、大きくわけて下記の5点の検討に時間が割かれることが多いようです。

➀保育ICTに関する情報収集と導入計画の立案
➁予算の申請と確保
➂必要要件の精査、保育現場との調整
④契約事業者の選定
⑤運用計画の立案と実行

保育ICT導入は、情報収集から運用計画まで多岐にわたる検討事項があり、時間と労力がかかります。特に、要件定義や事業者選定は慎重に進める必要があります。自治体導入実績が豊富な事業者に相談することで、これらのプロセスをスムーズに進めることが可能です。専門的な知識やノウハウを活用し、効率的な導入を実現しましょう。

2. 補助金の活用:保育DX推進のための財源確保

保育ICT導入のための財源確保には、補助金を活用するケースが多く見られます。 政府は平成28年度頃から継続的に補助金を交付しており、ICT補助金の活用・実施に関するアンケート(※1)では、保育ICT導入に際して補助金を活用した自治体は84.2%にのぼりました。

これまで公立保育所における保育ICT導入の活用実績としては、主に「保育所等におけるICT化推進等事業・保育対策総合支援事業費補助金」、「地域未来交付金(※)」が挙げられます。

また、政府は保育所のICT導入を推進するため、ICT導入補助事業を実施しています。令和6年度より、自治体・保育事業者・ICT関連事業者などで構成される「協議会」を設置すると、自治体補助率が嵩上げされる仕組みがあります。協議会を設置しない場合、自治体の財政負担が1/4(公立施設の場合は1/2)ですが、設置すると1/12(公立施設の場合は1/3)となるため財政負担軽減となります。財政負担軽減に伴う補助金制度の利用拡大によって、よりICT導入が推進されていくでしょう。(※事業者の負担は1/4)

■令和6年度 協議会設置事例
https://kodomodx.or.jp/kyogikai/report/

※ 「新しい地方経済・生活環境創生交付金(旧・デジタル田園都市国家構想交付金)」は令和6年度補正予算より「地域未来交付金」と改称されましたが大きな変更はなくご活用いただけます。保育ICTは地域住民等利用推進型の【TYPEA】に該当いたします。

3. 国の推奨仕様への準拠

デジタル庁は、地域のデジタル化を加速するために「デジタル地方創生サービスカタログ・モデル仕様書」を策定しました。国が推奨するシステムや標準仕様が公表されているため、自治体職員が保育ICT導入検討にかかる負担の軽減に役立ちます。また、自治体間でシステムにばらつきがある現状を解消し、効率的な業務運営を実現するための重要な指針でもあります。
こども家庭庁も、保育DXとして給付・監査を始めとする業務をデジタル化する「保育業務のワンスオンリー」やオンラインで保育園手続きを一括化できる「保育ワンストップシステム」の実現を目指しており、これらの実現に向け保育ICTの導入率100%を掲げています。今後、自治体は国の推奨する標準仕様に準拠したシステムを導入することが重要となります。

保育AIの活用を見据えて

近年、保育現場でもAIの活用が進み始めています。保育AIは、業務省力化や保育の質向上に貢献する可能性を秘めており、今後の活用が期待されています。

1. 保育AIの可能性

現場職員へのアンケート調査では、保育現場職員の71.7%が生成AIの利用に不安を感じているものの、61.9%は今後の活用に意欲を示しています。不安の声としては「よくわからない」「活用方法が想像できない」「AIの性能への疑問」などがあげられますが、期待の声としては「業務効率化による保育時間確保」があげられています。
新たな技術である「保育AI」を子どもたちや保育の未来のために活用していくためには、保育現場におけるあるべき姿を常に問いながら、保育者と共にその活用方法を探求し続けることが重要です。

保育AIのあるべき姿についてはこちらをご覧ください。
あるべき姿から考える「保育AI」

保育DX推進に向けた自治体の今すぐできるアクション

本記事では、保育DXの全体像・こども家庭庁のロードマップ(フェーズ1・2)・最新KPI・補助金活用・国の推奨仕様について解説しました。令和8年度はフェーズ2(施設管理プラットフォーム全国展開)が本格化する年度です。

自治体保育担当課として、今すぐ取り組むべきアクションは以下の3ステップです。

①現状把握:管内施設の4機能別導入状況を調査し、特に「4機能すべて未導入」施設を特定する(全国平均:4機能すべて導入11.7%)
②財源確保:「保育所等におけるICT化推進等事業」の補助申請スケジュールを確認し、協議会設置による補助率嵩上げも検討する
③フェーズ2準備:施設管理プラットフォームとの連携を見据え、国の推奨仕様(デジタル地方創生サービスカタログ)に準拠したシステムを選定する

ICTシステムの導入や補助金活用についての不安がある場合は、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせフォーム

また、保育ICT推進加算の要件・スケジュールの詳細をまとめたスタートガイドを無料でダウンロードいただけます。
保育ICT推進加算スタートガイド(無料)

参考資料
保育政策の新たな方向性/こども家庭庁
デジタル地方創生サービスカタログ・モデル仕様書/デジタル庁

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